変 態 ― metamorphose ―【完】
ふう、とため息をつきながら手を洗っていると、化粧直しに精を出す女の子たちの会話が耳に入ってきた。
あたしより少し年上に見える彼女たちは、どうやらで合コンで来たようだ。

うるうるした塗りたてのリップグロス。
いまのあたしは、そのおいしそうな唇にすら胃もたれする。

「てかさ、なんでミキちゃん呼んだの? あの子がいたら嫌だって前に言ったじゃん」

「ごめん。他の子が見つからなくて」

「あの子がいたんじゃ勝ち目ないじゃん。もうやだ、帰りたい。隣に座りたくない」

「でも、ミキちゃん悪い子じゃないでしょ?」

「だからだよ。だから尚更やだ。だけどさあ、あの男たちも態度があからさま過ぎるよ」

「ごめんごめん。埋め合わせするからさ」

どうやら合コンはミキちゃんの一人勝ちの模様。
どんまい。脂取り紙で額を押さえながら、胸の内で彼女たちにエールを送る。

ミキちゃんがどんなにいい女なのかはわからないけれど、わかりやすく態度に出す男性陣はよくない。
モブだって引き立て役だって、感情がある。

気にすることないよと言われようと、そんな阿呆な男に好かれることないよと励まされようと、彼らの一挙手一同でいちいち丁寧に傷ついてしまう。
「傷ついてません」の笑顔を貼りつけて、お腹の中で中指を立ててやり過ごす時間ほど無駄な時間ってないんじゃないのかな。
< 29 / 286 >

この作品をシェア

pagetop