変 態 ― metamorphose ―【完】
「そういえば奥に座ってる髪の長い男の人、見た? かっこよかったよ。ちょっと髪が長過ぎるけど、バンドマンとかかな。それともホストかな」
「えー、見てない。見よ」
ひやり。胸が瞬間冷却して、微かな靄が漂う。
そのかっこいい人の隣に座っていたあたしがいまここにいることに気がつかないのは、あたしが地味なのか、綴に目を奪われたのか、どっちだろう。
考えるまでもなく答えは前者。
靄を消すように唇を赤く塗りつぶして席に戻ると、なぜか綴がチカくんのスマホを手にして食い入るように画面を見ていた。
「なに見てるの」
画面を覗き込んだあたしは、さっきよりもずっとひやっとした。
水族館の前に立って微笑むママとチカくん。
なんで?
胃がぎゅうっと収縮して、反射的にチカくんに視線をやる。
「高校生くらいのカップルの子たちが写真撮ろうとしてて、輝子さんが撮りますよって声かけたら、お返しにって撮ってくれて」
「そうなんだ……」
訊きたかったのは、そんなことじゃない。
テーブルの下でぎゅっと拳を握りしめた。
「えー、見てない。見よ」
ひやり。胸が瞬間冷却して、微かな靄が漂う。
そのかっこいい人の隣に座っていたあたしがいまここにいることに気がつかないのは、あたしが地味なのか、綴に目を奪われたのか、どっちだろう。
考えるまでもなく答えは前者。
靄を消すように唇を赤く塗りつぶして席に戻ると、なぜか綴がチカくんのスマホを手にして食い入るように画面を見ていた。
「なに見てるの」
画面を覗き込んだあたしは、さっきよりもずっとひやっとした。
水族館の前に立って微笑むママとチカくん。
なんで?
胃がぎゅうっと収縮して、反射的にチカくんに視線をやる。
「高校生くらいのカップルの子たちが写真撮ろうとしてて、輝子さんが撮りますよって声かけたら、お返しにって撮ってくれて」
「そうなんだ……」
訊きたかったのは、そんなことじゃない。
テーブルの下でぎゅっと拳を握りしめた。