変 態 ― metamorphose ―【完】
「そろそろ帰るね。アイス、ごちそうさま」

「もう? じゃあ、駅まで送ってく」

「大丈夫だよ。駅はすぐそこだし、人もいっぱい歩いてるから。それより、酔いがちゃんと冷めてないならシャワーは明日にしてね。髪の毛とか焼き肉臭くて嫌だろうけど、お風呂で滑って頭打っても、誰も気づいてくれないんだから」

「ほら。そういうところが母性本能」

「やめてよ」

唇を尖らせると、あたしよりもっと唇を尖らせた綴がキスをした。

一回、二回、三回。
回数を重ねるほど、弾みをつけたようにキスの音は大きくなる。

大袈裟に音を立てて交わすキスは、なんだか胸が躍ってしまう。

頬に、瞼に、おでこに。
唇はテンポよく舞っていく。

両手で包まれた頬が、その手のなかにとろんと溶け落ちてしまいそう。
暑いのは嫌いなのに、どうして綴から伝わる熱はこんなにも心地いいのだろう。

「冷凍庫のアイス、食べないでね。今度来たときに食べるから」

「はいはい」

「ぜったいだよ」

「はいはい」

食べちゃうんだろうな、と思いながらあたしは綴のアパートを出た。
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