変 態 ― metamorphose ―【完】
「というより、それはチカに限ったことじゃなくて。輝子は昔から美人で聡明で、だけど気取ってなくて。男の子たちは、みんな輝子が好きだった。学校の先生だって、八百屋のおじさんだって、輝子と話すときはうれしそうだった。そういうのって、子どもでもわかるものよね」
「そんなんで女の子からいじめられたりしなかったの?」
「少なくとも、私が知ってる限りはなかったわね。圧倒的に敵わない人間の前じゃ、意地悪しようなんて考えないんじゃない?」
ふうん、と返すと、あっちゃんはママの骨壺に視線をやった。
「四十九日、もうすぐだね」
骨壺を覆う、白色度のやたらと高い骨壺カバーが眩しかった。
繊細な刺繍が施されているそれは、ママが見たら「ママの好みじゃない」と頬を膨らますだろう。
「まさか、こんなに早く輝子が来るとは俊哉さんも思ってなかったわよね」
「うん。お父さん、迷惑がるかも。うるさい奴が来たぞって」
「あはは。たしかに。俊哉さんは輝子と違って、もの静かだったからね」
あたしは手元にあるノートから、お父さんの写真を取り出した。
穏やかな、春のひだまりみたいな笑顔。
ちいさい頃に亡くなったから、あたしにはお父さんとの思い出はあまりない。
やさしい雰囲気だけが、記憶の縁にじんわりと残っている。
「そんなんで女の子からいじめられたりしなかったの?」
「少なくとも、私が知ってる限りはなかったわね。圧倒的に敵わない人間の前じゃ、意地悪しようなんて考えないんじゃない?」
ふうん、と返すと、あっちゃんはママの骨壺に視線をやった。
「四十九日、もうすぐだね」
骨壺を覆う、白色度のやたらと高い骨壺カバーが眩しかった。
繊細な刺繍が施されているそれは、ママが見たら「ママの好みじゃない」と頬を膨らますだろう。
「まさか、こんなに早く輝子が来るとは俊哉さんも思ってなかったわよね」
「うん。お父さん、迷惑がるかも。うるさい奴が来たぞって」
「あはは。たしかに。俊哉さんは輝子と違って、もの静かだったからね」
あたしは手元にあるノートから、お父さんの写真を取り出した。
穏やかな、春のひだまりみたいな笑顔。
ちいさい頃に亡くなったから、あたしにはお父さんとの思い出はあまりない。
やさしい雰囲気だけが、記憶の縁にじんわりと残っている。