変 態 ― metamorphose ―【完】
「それ、いい写真だね」

「うん。ママのお気に入りだったみたい。ノートひらくと、いつもこの写真をじーっと見てた。寝室にも同じ写真を飾ってたし」

ママの書いたエンディングノート。
黒いインクじゃなくてピンクのインクで書いてるところがママらしい。


――いち花。私にもしものことがあったら、これを見てね。


縁起でもないことを、と思ったし、パワフルなママはあたしなんかより長く生きる気すらした。

だけど現実は、「もしも」は容赦なく唐突にやってきた。


エンディングノートは大いに役に立った。
葬儀のこと、銀行口座やライフラインのこと、ママとあたしの保険のこと。

残されたあたしがどうなってしまうか、危惧していたんだろう。
黙っていれば美人で、口をひらけば少女のようなママは、しっかりとシングルマザーでもあった。

「どんな対応をされるかわからないけど」と注意書きの添えられたママの実家の連絡先には、あっちゃんが訃報の連絡をしてくれた。

だけど葬儀には、ママの肉親は誰も来なかった。
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