変 態 ― metamorphose ―【完】
***

近くのカフェに入って、カフェラテを飲みながら綴を待った。
お店に置かれたフリーペーパーやスマホを眺めて時間を潰してみるものの、綴はなかなかやって来ない。
すぐ、って言ってたのに。

お腹の底のむずむずが頂点に達しかけたとき、視界の端で、揺れる(あで)やかな馬の尾を捉えた。
あたしに気づいた綴の唇が、「いち花」とひらく。

「ごめん。シャワー浴びてたら、ちょっと遅くなった」

石けんの香りがふわりと漂い、がっかりした。
人工的な香りより、綴の香りの方がいい。

綴はメニューを開いたりはせず、店員にアイスコーヒーを注文した。
髪も服も飲み物も、すべてが黒い。

「前から思ってたんだけど、綴って黒以外の服って持ってるの?」

「なにその質問」

綴は咥えたストローに息を吹きかけ、ストローの包み紙をあたしに向かって飛ばした。
勢いが足りなかったのか、包み紙はテーブルの上にへろへろと落下した。
へたくそ、と笑い飛ばす。

「ちょうど昨日の夜、チカくんに貸そうと思ってたCDが見つかってさあ。タイミングよかった」

綴はすっかり友達のようにチカくんの名前を口にした。
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