変 態 ― metamorphose ―【完】
「チカくんのこと、ずいぶん気に入ったんだね」

「俺よりバンドのことよく知ってるし、いまはやってないみたいだけど、趣味でギター弾いたりもするんだって。すごいよな。小説も書けて、音楽のことも知ってて」

「ふうん。そうなんだ」

そんな話もしてたんだ。
自分がいかに焼き肉屋でふたりの会話を聞いていなかったのかが、よくわかった。

あたしにとってチカくんは赤ちゃんでしかないけど、綴にとってはすごく興味深い人なんだろうな。
瞳がいつもより大きく見える。

「そうだ。いち花もチカくんの小説読んでみる?」

「え、なんでいまの会話でそうなるの?」

「だって、いち花、チカくんのことあんまり知らないみたいだから。読んだらきっと、チカくんの印象変わるよ」

「そうかな」

「そうだよ。今度、何冊か貸すから」

いくらチカくんが有名な小説家だとしても、小説を読もうという気は起きない。
もともと小説を読む習慣のないあたしにとって、それはきっと苦行めいたものになる。
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