変 態 ― metamorphose ―【完】
「チカくんとの待ち合わせまで、けっこう時間あるよな。いち花、どこか行きたいところあるの?」

「ううん」

「待ち合わせより、ずいぶん早く家出たんだな」

「まあ、家にばかりいるのも不健康かな、と思って」

「そんな健康志向だったっけ」

鼻で笑われ、それは綴もじゃん、とツッコミを入れる。
冷蔵室も冷凍室もがらんどうの綴に言われたくはない。

あたしは運動はしないし、したくもないけど、食事だけは一応それなりに気を使ってる。
だけど、最近は考えてしまう。
どうせあたししか食べないんだから、もっと簡単なものでいいんじゃないかって。

昨日の夕飯は豆腐に納豆をのっけただけだった。
電気代はかからないし、洗い物は少ないし、豆だからたんぱく質だし、もうあたしの成長期は終わってる。


去年の今頃は毎日のようにゴーヤチャンプルーをつくらされた。
ハマるとそればかりになってしまうママには困ったものだった。

いまのあたしをママが見たら、なんて言うだろう。
ママがいたら、あたしはなにをつくっていただろう。
< 59 / 286 >

この作品をシェア

pagetop