変 態 ― metamorphose ―【完】
思い浮かべているのは毎日眺めた地元の海? それとも、ママ?

なんでもかんでもママに繋げて考えてしまう。
チカくんの三十七年間にママ以外の女の人だっていただろうに、他の女の人とチカくんを繋げて考えられない。

チカくんから擦れた感じがしないからだろうか。

「で、いち花はいつ?」

はっとして、慌てて視線を綴に移した。声が裏返る。

「い、いつって?」

「海だよ、海。最後に海に行ったのは?」

「ああ……。綴と同じで小学校の低学年とか、そのくらい」

「そしたら、いち花も十年以上ぶりか」

あまり覚えていないけど、小学二年生とか、そのくらいだった気がする。
そうだ。ママの職場の人たちとバスで行って、なんで水着持ってこなかったの? とママにしつこく言う男の人がいた。

その当時、人気だった俳優に似せた髪型をした、見た目はわりとかっこいい男の人。
だけどその爽やかな笑顔の目の奥は、なんだかぎらぎらして気持ち悪かったのを覚えてる。

着ませんよ、とママは笑顔でぴしゃりと言った。
< 77 / 286 >

この作品をシェア

pagetop