復讐の螺旋
第二十話 因果応報
伊東陽一郎はタクシーを降りるとスマートフォンの地図に表示された場所に向かって走った、山道を少し登った所に一件の別荘がある、窓から明かりが漏れているのですぐにたどり着いた。
ドアを叩くが反応がない、ノブを回してみると「カチャリ」と音がしてすんなりと開いた、恐る恐る玄関に侵入すると大声で叫ぶ。
「約束通り一人できたぞー! 妻と娘はどこだ!」
すると玄関を入ってすぐ横にある階段からミシミシと音を立てて男が降りてきた、顔を確認すると昨日居酒屋で軽く揉めた男だった。
「お前は……」
「まあ慌てるな、まずは二人で話をしようじゃないか」
「あんな些細な揉め事でこんな事をしたのか?」
伊東の質問には答えずに男は一階のリビングに入っていった。
「座れよ」
男に促されて伊東はソファに腰掛けた、男はダイニングチェアに座ると足を組んで伊東の目をジッと見つめている。
「俺が誰だかわかるか?」
「居酒屋で一緒になった男だろ、あの時の金を返せと言うならわざわざこんな事……」
伊東が言い終わる前に男は口を開いた。
「俺はお前に娘を殺された」
「えっ?」
「十年前、お前は蒲田と共に高校生の俺の娘を車で攫い陵辱した」
「あんたの娘だと……」
「十六歳だった葵は、特急列車に飛び込んでバラバラになったよ」
伊東は目を見開いて男を見つめる、思考が追いついてこない。
「そんな」
「今ならわかるだろう、お前にも娘を大切に思う気持ちが」
伊東は頭をフル回転させてどうやってこの場を乗り切るか考えを巡らせた。
「聞かせてくれ、今のお前の気持ちを」
伊東はその場で土下座をすると頭を擦り付けて謝罪した。
「すみませんでした! 本当にすみませんでした」
伊東は何度も頭を下げると謝罪を繰り返した。
「謝罪して欲しい訳じゃないんだ、それにお前は反省なんてしないよ、お前の気持ちが知りたい」
伊東は意味が分からずに男を見上げると冷たい視線を二階に送った。
「二人は二階の一番奥の部屋に監禁している……」
その言葉を聞いた伊東は男を牽制しながらソファを立つと、リビングを飛び出して階段を駆け登った。
※
「お前が幸せになるなんて許されると思っていたのか?」
明は目の前で泣き叫ぶ伊東に冷たく言い放った。
伊東は泣き叫びながら、すでに動かなくなった雅美を抱きかかえている。その光景を目の当たりにしてもなんの満足感も覚えなかったがやるべき事はまだ残っていた。
「娘は……」
伊東はかろうじてそれだけ発した。
「娘はそこにいる、早く出してやれ」
明は近くに放ってあるボストンバックを顎でシャクった。
伊東は雅美の亡骸をそっと固いフローリングに寝かせるとボストンバックのチャックを開けた、と同時に声にならない獣の叫び声が部屋中に響き渡った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ――――、はるかぁ、はるかぁ――――――――!」
四肢と頭部が切断された娘の亡骸をプラモデルの様に組み立てようとする伊東をみても明の溜飲は下がる事がなかった。
「どうだ?」
明の問いかけに伊東が振り返る。
「俺の気持ちがわかっただろ?」
伊東はコチラを睨んだまま固まっている。
「しかし俺にはお前の気持ちがさっぱりわからん、こんな事して何が楽しいんだ?」
明は横たわっている雅美の亡骸を蹴っ飛ばした。
「やめろ――――――――――――――!!」
伊東は落ちているサバイバルナイフを手に取ると明に向かって刃を向ける。
「そうだよ、俺が憎いだろ?」
明は笑った。
「うわ――――――――――――――!」
伊東はサバイバルナイフを持ったまま体当りして何度も明を刺した、すでに絶命している明をそれでも何度も何度も刺した。
「咲、離婚するなんて言うな」
「私は明くんといる資格なんてない」
「誰にだって過ちはあるさ、お腹の子供だって俺の子かも知れないだろう、例えそうじゃなくても咲から生まれて来たんだから俺の子だよ」
「でも……」
「咲、これからの事を考えよう、四人家族になるからな、忙しくなるぞー」
「明くん……」
咲、これでいいのかな、もうつかれたよ――。
それに――。
俺に蒲田敦は殺せない、蓮、お前の兄を俺は殺せない――。
ドアを叩くが反応がない、ノブを回してみると「カチャリ」と音がしてすんなりと開いた、恐る恐る玄関に侵入すると大声で叫ぶ。
「約束通り一人できたぞー! 妻と娘はどこだ!」
すると玄関を入ってすぐ横にある階段からミシミシと音を立てて男が降りてきた、顔を確認すると昨日居酒屋で軽く揉めた男だった。
「お前は……」
「まあ慌てるな、まずは二人で話をしようじゃないか」
「あんな些細な揉め事でこんな事をしたのか?」
伊東の質問には答えずに男は一階のリビングに入っていった。
「座れよ」
男に促されて伊東はソファに腰掛けた、男はダイニングチェアに座ると足を組んで伊東の目をジッと見つめている。
「俺が誰だかわかるか?」
「居酒屋で一緒になった男だろ、あの時の金を返せと言うならわざわざこんな事……」
伊東が言い終わる前に男は口を開いた。
「俺はお前に娘を殺された」
「えっ?」
「十年前、お前は蒲田と共に高校生の俺の娘を車で攫い陵辱した」
「あんたの娘だと……」
「十六歳だった葵は、特急列車に飛び込んでバラバラになったよ」
伊東は目を見開いて男を見つめる、思考が追いついてこない。
「そんな」
「今ならわかるだろう、お前にも娘を大切に思う気持ちが」
伊東は頭をフル回転させてどうやってこの場を乗り切るか考えを巡らせた。
「聞かせてくれ、今のお前の気持ちを」
伊東はその場で土下座をすると頭を擦り付けて謝罪した。
「すみませんでした! 本当にすみませんでした」
伊東は何度も頭を下げると謝罪を繰り返した。
「謝罪して欲しい訳じゃないんだ、それにお前は反省なんてしないよ、お前の気持ちが知りたい」
伊東は意味が分からずに男を見上げると冷たい視線を二階に送った。
「二人は二階の一番奥の部屋に監禁している……」
その言葉を聞いた伊東は男を牽制しながらソファを立つと、リビングを飛び出して階段を駆け登った。
※
「お前が幸せになるなんて許されると思っていたのか?」
明は目の前で泣き叫ぶ伊東に冷たく言い放った。
伊東は泣き叫びながら、すでに動かなくなった雅美を抱きかかえている。その光景を目の当たりにしてもなんの満足感も覚えなかったがやるべき事はまだ残っていた。
「娘は……」
伊東はかろうじてそれだけ発した。
「娘はそこにいる、早く出してやれ」
明は近くに放ってあるボストンバックを顎でシャクった。
伊東は雅美の亡骸をそっと固いフローリングに寝かせるとボストンバックのチャックを開けた、と同時に声にならない獣の叫び声が部屋中に響き渡った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ――――、はるかぁ、はるかぁ――――――――!」
四肢と頭部が切断された娘の亡骸をプラモデルの様に組み立てようとする伊東をみても明の溜飲は下がる事がなかった。
「どうだ?」
明の問いかけに伊東が振り返る。
「俺の気持ちがわかっただろ?」
伊東はコチラを睨んだまま固まっている。
「しかし俺にはお前の気持ちがさっぱりわからん、こんな事して何が楽しいんだ?」
明は横たわっている雅美の亡骸を蹴っ飛ばした。
「やめろ――――――――――――――!!」
伊東は落ちているサバイバルナイフを手に取ると明に向かって刃を向ける。
「そうだよ、俺が憎いだろ?」
明は笑った。
「うわ――――――――――――――!」
伊東はサバイバルナイフを持ったまま体当りして何度も明を刺した、すでに絶命している明をそれでも何度も何度も刺した。
「咲、離婚するなんて言うな」
「私は明くんといる資格なんてない」
「誰にだって過ちはあるさ、お腹の子供だって俺の子かも知れないだろう、例えそうじゃなくても咲から生まれて来たんだから俺の子だよ」
「でも……」
「咲、これからの事を考えよう、四人家族になるからな、忙しくなるぞー」
「明くん……」
咲、これでいいのかな、もうつかれたよ――。
それに――。
俺に蒲田敦は殺せない、蓮、お前の兄を俺は殺せない――。