復讐の螺旋
第九話 明の決意
自宅に戻ってからもあのアパートから盗んできたDVDを観る事ができないでいた。明の予感が正しければこの中にはおぞましい映像が記録されているに違いない。
テーブルの上に置いたプラスチックのケースとにらめっこしている内に時刻は十七時を回ろうとしていた、そろそろ蓮が帰ってくる頃だ。
どの道、今日は観ることが出来ないな、自分に言い訳をするとプラスチックケースを鞄にしまった。
「すごいじゃないですか」
本庄は明が家まで突き止めた話をすると関心したように手を叩いた。
「いえ、教えられた通りにスマホを操作しただけですから」
「とんでもない、娘さんにバレないようにスマホのロックを解除した事がすごいんですよ」
曖昧に頷くと昨日の出来事を本庄に話す、結局DVDを観ることが出来ないまま再び本庄に相談にやってきた。
「場所が分かったのでその住所に行ってみたんです、グリーン荘という古いアパートがありました」
「ええ」
「ちょうど扉が開いて若い男性が出てきたのですが、見た感じは特に……。普通の若者でした」
少し脚色して話をする、開いた窓から忍び込んだとは言えない。
「その部屋の男性で間違いないと?」
「わかりません、ですがアパートは六部屋あって人が住んでいる気配がしたのはその部屋だけでした」
「なるほど、で、私はその部屋の男の事を詳しく調べれば良いのですね?」
「お願いできますか」
「もちろんです、身辺調査は得意分野でしてね、任せてください」
帰り道を歩きながら、普通の青年であって欲しいと明は願った、散乱したDVDは趣味のアニメでも録画したものに違いないと。
調査結果が普通の青年であれば盗んだDVDは中身を見ないで彼の留守中にそっと返しておけばいい。
しかし明の願いは届かない、三日後に本庄から連絡があると再び事務所に訪れた。
「どうやら一之瀬さんの心配は的中したようですね」
神妙な面持ちで資料の束を見つめながら本庄が続ける。
「まず、あのアパートには一之瀬さんが見たという若い男性の他に七十五歳になる老人が一人で住んでいます、この老人とお嬢さんがお知り合いという事はないと思いますので101号室の若い男で間違いないでしょう」
明は軽く頷いて先を促した。
「蒲田 敦 十九歳。品川第一高校中退後は日雇い派遣の仕事で生計を立てているようです、両親は三歳の時に離婚、その後は父親と同居していましたが現在は別々に暮らしています」
「カマタ……」
生涯忘れる事が出来ない名字を出されて明は硬直していた。
いや、蒲田なんて名字はそんなに珍しくもないだろうが。
「生い立ちは同情しますが素行の悪さは許容できるレベルじゃありませんね、窃盗罪、傷害罪、強姦罪、殺人以外の悪さは一通り経験しています、伊藤陽一郎という同年代の男と行動を共にしていますがコイツもロクデナシですね、上手いこと実刑を食らっちゃいませんが警察はこの二人をマークしてますよ」
本庄は写真を二枚テーブルに並べると髪が茶色い方が蒲田でもう一人が伊東だと説明してくれた。
たったの三日でそこまで調べることが出来るのだろうか、身辺調査は得意分野と言っていたがもしかしたら元の職業は刑事なのかもしれない、鋭い目つきも頷ける。
「もしお嬢さんがコイツらと一緒にいるようであれば即刻引き離すのが賢明だと思います、事件に巻き込まれる前に」
すでに事件に巻き込まれている――。
「蒲田の父親の名前はわかりますか?」
そんな訳ない。
咲だけじゃなく葵まで……。
「え? 父親の名前ですか、えーっと」
本庄は資料をパラパラと見返した。
「あー、これですね」
明は息を呑みこんだ。
「蒲田 総一郎」
どうやって家まで帰ってきたか記憶が曖昧だったが、明は家に着くと鞄からDVDを取り出してプレーヤーにセットした。頭がぼうっとして思考回路が停止している。
「ちゃんと咥えろよ」
モザイク処理もされていない黒光りした陰部を葵の口にねじ込んでいる、画面の中の葵は抵抗する訳でもなくされるがままだった。
テレビ画面に映し出された映像には確かに葵が映っているのだが、あまりにも非現実的な光景に明は呆然としていた。
「あー気持ちいい〜」
パンパンパンッと後ろから突き上げている男の顔が映し出される、細いつり目にニキビ跡が残る気味の悪い男は本庄から見せられた写真の伊東と同一人物だった。
「だめだイクッ!」
明は動けない、映像をジッと見つめながら固まったままだ。
「ちょっと撮るの変われよ」
画面が一度天井の方を向いた後に再び葵を映し出す、先程まで撮影していた男が体位を変えて挿入している、先日アパートから出てきた男だった。
「コイツ全然声出さねえな」
撮影している男の声が入ってくる。
「おい! 感じてんだろ、あ?」
腰を振るスピードを上げながら葵の唇を舐め回していると男の息遣いが荒くなる。
「イクイクイクイク!」
男が果てた後も撮影は続いた。
「あれ? 血がでてる」
男は自分の陰部をティッシュで拭きながら布団を指さした
映し出された布団には真っ赤な血が付いている。
「生理だったんじゃね」
「いやいや処女だったんだよ」
「今時のJKに処女なんかいるかぁ?」
男はパンツを履くと葵の頭に敷いていた鞄を漁り始めた、手帳の様なものを見つけるとスマホカメラで撮影している。
「そんなもん撮影してどうすんだよ?」
「念の為な」
「まあこれだけの美少女は中々いねえからな、一回じゃ勿体ねえか」
そう言うと撮影している男は葵の方にカメラを向ける、葵はコチラを向いたまま無表情だったが何か喋ったような口の動きをした後に涙を流した。
明は少しだけ巻き戻して葵の口の動きに注目した、声は聞こえないがなんて言ったかわかった。
「パパタスケテ」
明はソファから立ち上がるとローテーブルを持ち上げてテレビ画面に叩きつけた。
「ウォォォォ―――――――――!」
液晶画面が割れてガラスが飛散る
「殺してやる!」
明はキッチンから包丁を取り出すと鞄にしまい家を飛び出した、すぐにタクシーを捕まえるとグリーン荘の前で下車する。
鞄から包丁を取り出すと101号室の扉を勢いよく開けた、相変わらず鍵は開いたままだったが部屋の中には誰も居なかった。
明は土足のまま部屋に上がると包丁を握ったままちゃぶ台に座り蒲田の帰りを待った――。
「カチャッ」
玄関からの物音に反応して顔を上げる、右手に握った包丁を構えて立ち上がったが、扉に付いた郵便受けからチラシの様な物が落ちただけだった。
「ふー」
明は深呼吸するとスマートフォンを取り出して時間を確認した。
『一六時五十分』
かれこれ三時間以上この部屋に居るが蒲田が帰ってくる気配は無い、そろそろ蓮が学校から帰ってくる頃だ。
リビングの惨状を見たらなんて思うだろうか、そもそも今ここで蒲田を殺して警察に捕まったら蓮はどうなってしまうのだろう。
頭が真っ白になって家を飛び出して来たが、いつの間にか冷静さを取り戻した明は包丁をしまうと立ち上がり、蒲田の部屋を後にした。
家に帰ると蓮はまだ帰っていなかった、液晶がバキバキのテレビを抱えると自分の部屋に隠す、フローリングに散らばった大きな破片を手で拾い集めて細かい破片は掃除機で吸い取った。
「ただいまー」
ランドセルを背負った蓮がリビングに入って来た。
「おかえり」
「あれ、テレビ無くなってる?」
「ああ、うっかり倒しちゃってさ、画面が割れちゃったよ」
「そっか、明はドジだからなー」
「ごめんな、新しいやつ買っとくからさ」
余計な出費だが自業自得だ。
「まあ、あっても無くても良いけどね」
蓮は小学生にしては珍しくあまりテレビに興味を示さない、そのかわり大人が読むような小説やビジネス本を明から借りては読んでいた。
蓮が眠りにつくと明は本来テレビがあるはずの方向をじっと見つめながら考えていた、警察に通報したほうが良いのか。
あの動画を提出すれば自殺との因果関係を認めて二人を逮捕してくれるのだろうか。
『強姦罪 未成年』
スマートフォンで検索すると様々な情報が出てくる。
『強制わいせつ罪の刑罰は懲役六ヶ月以上十年以下』
「六ヶ月……」
この開きは一体何なんだ、いや、たとえ十年でも短すぎる。
そもそもあの映像を他の人間に見せることなど考えられない、明はテレビに映る葵の姿を思い出すと再び怒りの炎が内側から燃え上がってくるのを感じた。
「パパタスケテ」
(葵……、すまない。パパは葵を助ける事が出来なかった)
しかし、と明は決意する。
警察になど頼らない、あいつらは必ず自分の手で地獄に落とすーー。
テーブルの上に置いたプラスチックのケースとにらめっこしている内に時刻は十七時を回ろうとしていた、そろそろ蓮が帰ってくる頃だ。
どの道、今日は観ることが出来ないな、自分に言い訳をするとプラスチックケースを鞄にしまった。
「すごいじゃないですか」
本庄は明が家まで突き止めた話をすると関心したように手を叩いた。
「いえ、教えられた通りにスマホを操作しただけですから」
「とんでもない、娘さんにバレないようにスマホのロックを解除した事がすごいんですよ」
曖昧に頷くと昨日の出来事を本庄に話す、結局DVDを観ることが出来ないまま再び本庄に相談にやってきた。
「場所が分かったのでその住所に行ってみたんです、グリーン荘という古いアパートがありました」
「ええ」
「ちょうど扉が開いて若い男性が出てきたのですが、見た感じは特に……。普通の若者でした」
少し脚色して話をする、開いた窓から忍び込んだとは言えない。
「その部屋の男性で間違いないと?」
「わかりません、ですがアパートは六部屋あって人が住んでいる気配がしたのはその部屋だけでした」
「なるほど、で、私はその部屋の男の事を詳しく調べれば良いのですね?」
「お願いできますか」
「もちろんです、身辺調査は得意分野でしてね、任せてください」
帰り道を歩きながら、普通の青年であって欲しいと明は願った、散乱したDVDは趣味のアニメでも録画したものに違いないと。
調査結果が普通の青年であれば盗んだDVDは中身を見ないで彼の留守中にそっと返しておけばいい。
しかし明の願いは届かない、三日後に本庄から連絡があると再び事務所に訪れた。
「どうやら一之瀬さんの心配は的中したようですね」
神妙な面持ちで資料の束を見つめながら本庄が続ける。
「まず、あのアパートには一之瀬さんが見たという若い男性の他に七十五歳になる老人が一人で住んでいます、この老人とお嬢さんがお知り合いという事はないと思いますので101号室の若い男で間違いないでしょう」
明は軽く頷いて先を促した。
「蒲田 敦 十九歳。品川第一高校中退後は日雇い派遣の仕事で生計を立てているようです、両親は三歳の時に離婚、その後は父親と同居していましたが現在は別々に暮らしています」
「カマタ……」
生涯忘れる事が出来ない名字を出されて明は硬直していた。
いや、蒲田なんて名字はそんなに珍しくもないだろうが。
「生い立ちは同情しますが素行の悪さは許容できるレベルじゃありませんね、窃盗罪、傷害罪、強姦罪、殺人以外の悪さは一通り経験しています、伊藤陽一郎という同年代の男と行動を共にしていますがコイツもロクデナシですね、上手いこと実刑を食らっちゃいませんが警察はこの二人をマークしてますよ」
本庄は写真を二枚テーブルに並べると髪が茶色い方が蒲田でもう一人が伊東だと説明してくれた。
たったの三日でそこまで調べることが出来るのだろうか、身辺調査は得意分野と言っていたがもしかしたら元の職業は刑事なのかもしれない、鋭い目つきも頷ける。
「もしお嬢さんがコイツらと一緒にいるようであれば即刻引き離すのが賢明だと思います、事件に巻き込まれる前に」
すでに事件に巻き込まれている――。
「蒲田の父親の名前はわかりますか?」
そんな訳ない。
咲だけじゃなく葵まで……。
「え? 父親の名前ですか、えーっと」
本庄は資料をパラパラと見返した。
「あー、これですね」
明は息を呑みこんだ。
「蒲田 総一郎」
どうやって家まで帰ってきたか記憶が曖昧だったが、明は家に着くと鞄からDVDを取り出してプレーヤーにセットした。頭がぼうっとして思考回路が停止している。
「ちゃんと咥えろよ」
モザイク処理もされていない黒光りした陰部を葵の口にねじ込んでいる、画面の中の葵は抵抗する訳でもなくされるがままだった。
テレビ画面に映し出された映像には確かに葵が映っているのだが、あまりにも非現実的な光景に明は呆然としていた。
「あー気持ちいい〜」
パンパンパンッと後ろから突き上げている男の顔が映し出される、細いつり目にニキビ跡が残る気味の悪い男は本庄から見せられた写真の伊東と同一人物だった。
「だめだイクッ!」
明は動けない、映像をジッと見つめながら固まったままだ。
「ちょっと撮るの変われよ」
画面が一度天井の方を向いた後に再び葵を映し出す、先程まで撮影していた男が体位を変えて挿入している、先日アパートから出てきた男だった。
「コイツ全然声出さねえな」
撮影している男の声が入ってくる。
「おい! 感じてんだろ、あ?」
腰を振るスピードを上げながら葵の唇を舐め回していると男の息遣いが荒くなる。
「イクイクイクイク!」
男が果てた後も撮影は続いた。
「あれ? 血がでてる」
男は自分の陰部をティッシュで拭きながら布団を指さした
映し出された布団には真っ赤な血が付いている。
「生理だったんじゃね」
「いやいや処女だったんだよ」
「今時のJKに処女なんかいるかぁ?」
男はパンツを履くと葵の頭に敷いていた鞄を漁り始めた、手帳の様なものを見つけるとスマホカメラで撮影している。
「そんなもん撮影してどうすんだよ?」
「念の為な」
「まあこれだけの美少女は中々いねえからな、一回じゃ勿体ねえか」
そう言うと撮影している男は葵の方にカメラを向ける、葵はコチラを向いたまま無表情だったが何か喋ったような口の動きをした後に涙を流した。
明は少しだけ巻き戻して葵の口の動きに注目した、声は聞こえないがなんて言ったかわかった。
「パパタスケテ」
明はソファから立ち上がるとローテーブルを持ち上げてテレビ画面に叩きつけた。
「ウォォォォ―――――――――!」
液晶画面が割れてガラスが飛散る
「殺してやる!」
明はキッチンから包丁を取り出すと鞄にしまい家を飛び出した、すぐにタクシーを捕まえるとグリーン荘の前で下車する。
鞄から包丁を取り出すと101号室の扉を勢いよく開けた、相変わらず鍵は開いたままだったが部屋の中には誰も居なかった。
明は土足のまま部屋に上がると包丁を握ったままちゃぶ台に座り蒲田の帰りを待った――。
「カチャッ」
玄関からの物音に反応して顔を上げる、右手に握った包丁を構えて立ち上がったが、扉に付いた郵便受けからチラシの様な物が落ちただけだった。
「ふー」
明は深呼吸するとスマートフォンを取り出して時間を確認した。
『一六時五十分』
かれこれ三時間以上この部屋に居るが蒲田が帰ってくる気配は無い、そろそろ蓮が学校から帰ってくる頃だ。
リビングの惨状を見たらなんて思うだろうか、そもそも今ここで蒲田を殺して警察に捕まったら蓮はどうなってしまうのだろう。
頭が真っ白になって家を飛び出して来たが、いつの間にか冷静さを取り戻した明は包丁をしまうと立ち上がり、蒲田の部屋を後にした。
家に帰ると蓮はまだ帰っていなかった、液晶がバキバキのテレビを抱えると自分の部屋に隠す、フローリングに散らばった大きな破片を手で拾い集めて細かい破片は掃除機で吸い取った。
「ただいまー」
ランドセルを背負った蓮がリビングに入って来た。
「おかえり」
「あれ、テレビ無くなってる?」
「ああ、うっかり倒しちゃってさ、画面が割れちゃったよ」
「そっか、明はドジだからなー」
「ごめんな、新しいやつ買っとくからさ」
余計な出費だが自業自得だ。
「まあ、あっても無くても良いけどね」
蓮は小学生にしては珍しくあまりテレビに興味を示さない、そのかわり大人が読むような小説やビジネス本を明から借りては読んでいた。
蓮が眠りにつくと明は本来テレビがあるはずの方向をじっと見つめながら考えていた、警察に通報したほうが良いのか。
あの動画を提出すれば自殺との因果関係を認めて二人を逮捕してくれるのだろうか。
『強姦罪 未成年』
スマートフォンで検索すると様々な情報が出てくる。
『強制わいせつ罪の刑罰は懲役六ヶ月以上十年以下』
「六ヶ月……」
この開きは一体何なんだ、いや、たとえ十年でも短すぎる。
そもそもあの映像を他の人間に見せることなど考えられない、明はテレビに映る葵の姿を思い出すと再び怒りの炎が内側から燃え上がってくるのを感じた。
「パパタスケテ」
(葵……、すまない。パパは葵を助ける事が出来なかった)
しかし、と明は決意する。
警察になど頼らない、あいつらは必ず自分の手で地獄に落とすーー。