奈落の果てで、笑った君を。
「俺が振ったんです、よっ」
「強がらんでええき!若いうちにゃあ、何事も経験ぜ…よっ!」
「だから違うって言ってるじゃないですか!」
「おなごは水切りよりも難しいきな、ガハハハッ」
投げては跳ねて、投げては跳ねて。
結局この人には勝てることなく、俺の水切りは惨敗だった。
「京にゃ使いを頼まれて来たんやけんど、また江戸に行って、その次は土佐(とさ)に戻るぜよ」
「…土佐…、忙しいんですね」
「おう!走り回るのがワシじゃ」
夕日を眺めながら、川縁に並んで腰かける。
人見知りをする俺でも、どういうわけか珍しく打ち解けることができた。
「あなたの名前は」
「…ワシはちっくと有名になりすぎたき。秘密ちや」
「…なら、俺も秘密で」
彼のことだから文句を垂れてくると思っていたが、そうではないらしい。
小さく微笑むと、ぐおっと伸びをひとつしてから腰を上げた。