奈落の果てで、笑った君を。
「名っちゅーもんはあとからついてくる!そがなんより、ワシはでっかいことをやり遂げたいがじゃ!」
「でっかい、こと?」
「ああ!この国は1度、洗濯せにゃあいかん」
黄昏(たそがれ)色の太陽が、彼の背中を今よりずっとずっと大きなものにさせる。
まるで海を渡る航海士のように。
そこには船が見えて、揺れる波が見えて。
「誰っちゃあ幕府には逆らえず、生まれた身分で幸せが決まるやておかしな話だとは思わんかえ」
そう言われて、俺の頭のなかには朱花が思い浮かんだ。
「同じ国に生まれ、同じ髪の色をしちゅーて同じ肌の色をしちゅーのに、どいて殺し合うがよ。
そがなんをしちゅーあいだにも、異国はこの国を沈めようとしちょるき」
口や声だけでなく、身体ぜんぶで話す人なんだと思った。
そして彼は夕日と一緒に俺へと向き直る。