奈落の果てで、笑った君を。
「尚晴!いっぱい食べて!」
「…嬉しいが、こんなに食べられそうにない」
「夜ご飯にみんなで食べよ?わたしも食べたい!」
ここに下宿する隊士以上の量はありそうだ。
半分以上は餡と胡麻の通常なおはぎだが、残りの1割は白いおはぎ。
誰が作ったのか一目見て分かるからこそ、微笑ましくもあった。
「俺はこちら側をいただく」
「あっ、それわたしが作ったほうだよ!尚晴が元気になるように、いっぱいお願いしておいたの!」
「…ありがとう」
その日の夕餉(ゆうげ)はいつもの食事におまけが追加されたように、手作りのおはぎが並んだ。
巡察帰りの男たちも、与頭を始めとした幹部たちも、俺のような平隊士も。
みんなが次から次に手を伸ばす。
「尚晴、元気になった…?」
「…ああ。なった」
「よかった!」
いつかにどこかの茶室で許嫁の女との前に出されたおはぎよりも、それはずっとずっと高価なものだった。