奈落の果てで、笑った君を。
「さすがに将軍様を前にすれば、朱花だって無礼は働きませんって」
「えっ、しょうぐんさま…?」
「ほーら。食いついた」
お漬物がぽろっと、こんもりとよそわれた白米の上に落ちた。
将軍様と聞いて甦ったのは、暗くて冷たい牢屋のなか。
冷めきった食事と、着物も布団もない毎日。
「あれ?そこまでは嬉しくない?」
「……うん」
「待て待て。ここで生活しておいて家茂公の入京を喜ばないのは波紋すぎー」
いえ…もち、こう。
それは徳川の人だ、ぜったいに。
あの大きなお城の最上階に住んでいた人間で、対するわたしは最下階の地下牢。
「いえもちこうが、くるの?」
「そーだよ。そこで訪れる二条城の警備に俺たち見廻組は任されちゃうっていう、そりゃもう大役」
「……わたし…、それ行かない。お留守番してる」
「えっ、こんな機会2度と無いと思うけど本当にいーの?約230年ぶりの将軍上洛だよ?」
「うん」
「もっったいねえーーー」