奈落の果てで、笑った君を。
その人がどれだけ偉い人なのか、どんなに高い位にいる人なのか、わたしはなんにも知らない。
でも同じ場所にいたはずなのに、わたしなんかとは違って小さなときから良い暮らしをしてきたんだろう。
温かいご飯を食べて育ってきたんだろう。
だから……会いたくない。
「朱花。君も一緒に行きましょう」
「…え」
さっきはお留守番だと言っていたのに、わたしを誘ってしまったのは只三郎だった。
「いろんな経験になるからね。大丈夫。私たち全員もいますから、怖くはないよ」
「……うん」
一緒に生活して数ヶ月が立てば、わたしだって分かる。
只三郎は、ここでいちばん偉いひと。
そんな彼の命令には背くことはできない。
チラッと、静かに見守っていた尚晴を見つめると。
今まで見たなかでいちばんに優しい顔をしていた。
「ではこちらの大宮口は私たち見廻組にお任せください」
「うむ。頼んだぞ」