奈落の果てで、笑った君を。
───そして徳川 家茂が京へと訪れる日がやってきた。
見廻組だけでなく、城の全体をズラリと並んだ男たちが囲う。
そのなかに期待していた空の色は見つからず、少しだけ唇を尖らせた。
「みんないいですね?いついかなるときも気を引き締めるように」
「「「はっ!!」」」
わたしは今日だけ、着物ではなく袴を着させられていた。
これはどうにも男の子のふりをするためだという。
だからついでに「腰に差す棒も欲しい」と只三郎にお願いすると、困ったように眉を下げて「さすがにそれはいろんな意味で危ないかな」と、断られてしまった。
「…将軍様ぜんぜん来ないよ」
「こらクソガキ。口の利き方には気をつけたまえ」
ぼうっと直立することに飽きてきて、ぼそっと「…帰りたい」とつぶやく。
と、右隣に立った桂にペシッと軽く叩かれた。
「早乃助。君もですよ」
「あっ、失礼いたしました佐々木さん。おクソガキですね、おクソガキ」
「……早乃助」
「すみません黙ります真面目になります」