奈落の果てで、笑った君を。
「…尚晴?」
「お前は……歳を取らないのか、朱花」
改めて言葉にすると、なんとも馬鹿げたことを聞いていると実感する。
屯所へつづく門の手前。
俺は足を止め、まっすぐ見つめた。
「───…うん」
よく、逃げてきた。
よく、あの火災から逃げ、ここまで走って、江戸から京へ来た。
たったひとりで、よく70年という長すぎる月日に終止符を打ったものだ。
俺はなぜか泣きたくて仕方がなかった。
「尚晴も、こわい?」
怖いんじゃない。
そうではなく、“怖い”のではなく。
もっと早くに出会ってやりたくて、もっと早くに助けてやりたくて、もっと早くに名前を付けてやりたかった。
これは、この気持ちは、どう現せば良いのだろう。
うまく言葉にできなかったから、抱き寄せた。
「あははっ、尚晴くるしい!」
俺はどうしたっていつか朱花を置いて先に死ぬ。
いまを生きている全員が、この少女より先に死ぬんだ。
誰もいなくなった世界で、この子はどんな世界を、なにを見るんだろう。