奈落の果てで、笑った君を。
短夜の火花
「忍法、押さえ込みの術~」
「うあああっ!!やだやだっ!わたしもう大丈夫だもん!はっくしょい…っ!ゴホッ、けほっ」
「うんうん、いっそがしいねえ朱花。なぁんで子供って体調崩すと逆に元気になるんだろうねー」
「げんき!」
「はいはい、熱が下がったら信じてあげよう。ほーらぐるぐるー」
わたしが布団から出ようとすれば押さえ込まれ、ぐるぐる巻きの刑にされる。
桂が扱う忍法とやらは、ちっともわたしを部屋の外へは出させてくれない。
「今日はオマツリがあるの!わたし行きたい!」
「ダメでーす、眠らせまーす。そりゃなるわ、調子こいて川に飛び込んでは夕刻まで泳ぎまくってれば」
なるわ、夏風邪にもなるわ───と、わたしの身体をむさぼる肌寒さと咳の正体はナツカゼというものらしい。
「魚にでもなりたかったのかい」
「だって、あつかったから!」
「あーほ。君は仮にも15歳の女の子だろう?いやもう16?そんな変わってないのが不思議だけど、まあいいや。いいかい?
たとえ精神年齢3歳のクソガキだとしても、女なら誰でもいい的な男だっているんだからさー」