奈落の果てで、笑った君を。
ぜったい断ることはできない只三郎の命令。
まだ食べたい気持ちを抑えつつ、箸を置いて湯気の上る朝ごはんに目を落としたわたし。
「早乃助、尚晴」と、只三郎は静かにふたりの名前を呼ぶ。
と、それだけで空気がまた変わった。
「…ちょっとお兄さんに見せてみな朱花」
「これわたしの!人のものは取っちゃダメなんだよ?」
「うーわ、返されたー。いやそうじゃなくて、安全なものかどうか確かめるんだってば」
ひょいっと取り上げられてしまったお椀。
そして大好物のオミソが乗ったおとーふは尚晴に。
「…ちょっ、これ木じゃん。これどう見ても枝ですよね?ノブちゃん、今日のお味噌汁の具は枝ですー?」
「ええっ!?そんなはずは…!」
「ですよねー?俺のは普通だし」
お味噌汁のなかから桂が箸で掴んだものは、庭に落ちていそうな小枝。
「尚晴、田楽はどう?」と、今度はもうひとりに注目が移った。
「…こちらは砂です。味噌に混ぜられてます」
「ええ…、うっそー…」