奈落の果てで、笑った君を。
尚晴の声はすごく低いもので、その場にいた全員が箸を置いた。
只三郎もノブちゃんも、桂も。
言及することはせず、ここはイイナズケでもある男に任せている。
「お前が朱花に向ける目を俺たちが見過ごすと思うか」
「……っ」
「武家の女なら、姑息な真似はやめろ」
「っ、どうして…っ、どうして尚晴様は私を見てはくださらないのですか……っ」
ぽたり、ぽたり。
うっ、うっ、と、次第にハッちゃんは泣き出してしまった。
「ハッちゃん泣いちゃったよ…?どうして泣いてるの?」
「…この子はね朱花、わざと朱花の朝食にだけ悪戯をしたんだよ」
そう言った桂の表情は、優しかった。
声も、目も、唇も、ぜんぶがわたしの味方だと言うように優しい。
「わざと…?どうして?」
「嫌いだからに決まってるでしょ…!!」
強く答えたのは、ハッちゃん。
ハッちゃん、わたしのこと嫌いなの…?
どうして嫌いなの?
わたしはハッちゃんのことがすき。
今みたいにちょっと怖いときはあるけど、尚晴の大切なひとだから、わたしにとっても大切なひと。