奈落の果てで、笑った君を。
「きらい…っ、あんたのことなんかっ、だいっきらい…っ!!」
「いい加減にしろハツネ!!」
「っ…、こんな子を庇う尚晴様もっ、尚晴様なんかも大っ嫌い…っ」
どうしよう、どうしよう。
ハッちゃんが尚晴のことまでも嫌いになっちゃった…。
どうして嫌いなの?
どうして泣いているの?
わからないことがありすぎるから、わたしは知りたい。
「ハッちゃん、前にセミの脱け殻を見せちゃったから…?ごめんなさい、もうしない…、だから今度、わたしと一緒にお散歩しよう?
あのねっ、お花が綺麗に咲いているところにハッちゃんと行きたいの!」
「誰があんたなんかと…っ、あんたみたいな世間知らずな異常者───」
「ハツネさん。それはいけないよ」
ぶわわっと、わたしでも分かった。
ずっと見守っていた只三郎から静かに伝えられた、言葉。
「それだけは、いけませんよ」
そして彼は繰り返す。
2度も言わなくても最初の時点でハッちゃんは黙ったというのに。
只三郎はたぶん、それを分かったうえであえて言ったんじゃないかと思った。
「っ、ハッちゃん!これ見て?」
ハッちゃんの流れつづける涙をどうにか止めたくて、わたしは自分の着物の懐に手を入れる。