奈落の果てで、笑った君を。




どうして俺たちがそんな男を追っているのかというと、蕪木は薩摩(さつま)藩と長州(ちょうしゅう)藩の情報を握る情報通。

両藩の仲は決して良いとは言えず、長いあいだ対立しており、何より長州藩は最近になって京を荒らしていると警戒する藩だった。


ので、俺たち見廻組の出番というわけだ。



「今回の任務内容は、島原(しまばら)に入り浸っていると噂の蕪木から少しでも何かしらの情報を盗む。ですよね?」


「ええ。ですがふたりとも、朱花がいるということだけは忘れないように」


「もちろんもちろん。だろう?尚晴」


「はい」



「吉原に行きたい」と朱花は望んでいたが、そこは江戸の花街だ。

京となれば島原。

そもそも誰が教えたんだと、俺はそこを問い詰めたい。


花街だからいいだろう、なんて、佐々木さんにしてはずいぶんと浅い決断だと思ったことは秘密だ。


情報を聞き出すだけ。

直接には蕪木に近づかないし、向こうにも俺たちの顔は知られていない。


だから朱花を連れて行くことができる、初めての任務だった。



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