奈落の果てで、笑った君を。
人の思想だって同じだ。
言葉から行動へと変わるように、良くも悪くも絶対的なものなど無い。
「どうして世はむじょ───、わっ」
こつんっと、額(ひたい)を軽く突く。
「今日はここまでだ」と言った若き青年は、決してこの少女の兄というわけでも親というわけでもなかった。
ただ、拾ったのは確か。
約半年前。
出会ったのは元治元年、12月のこと。
「尚晴!今日のご飯は何かなあ」
少女は鼻歌を口ずさみながら、くいっと隣を歩く男の袖を引いた。
「今日は朱花(あすか)の好物を用意すると、今井さんは言っていた」
「やった!あれ、あのね、おとーふにオミソが乗ったやつ!」
「味噌田楽か」
「それ!」
穢(けが)れを知らぬ、純粋無垢。
という言葉があるとするなら、この子に当てはまるのだろうと男は思った。
残酷なほど、あわれなほど、真っ白だ。