奈落の果てで、笑った君を。
「朱花…?」
張見世の前、また立ち止まった少女。
来たときのように暴れはしなかったが、やはりその目は寂しそうだった。
「お。今夜はすっごい満月」
夜空を見上げる早乃助さん。
そんなものにつられることなく、朱花は籠のなかの女たちを見つめつづけていた。
「大丈夫だ朱花」
「しょうせい…?」
似たような場所にいたんだろう。
お前もかつては出られない側だったのだろう、70年も。
「いつか…誰もが平等に生きられる世にしようと動こうとしている男が、いる」
名を、坂本 龍馬と言うらしい。
誰もが海の先へ渡れる世を、誰もが理不尽な身分差別に苦しまない世を作ると。
そしてお前を苦しめつづけた徳川幕府を本気で終わらせようとしている。
すごいことだ。
何百年と続いた歴史を変えようとしているんだ、その男は。
「ほんと?みんな笑顔?」
「…ああ」
「いつかその人に会ってみたい…!」
けれど俺が、その坂本 龍馬を暗殺することになろうとは。
このときは思ってもいなかった───。