奈落の果てで、笑った君を。




「歩きたいな」



いま寝ることほど勿体ないことはあるだろうか。

この空の下、心のおもむくまま、身体が吸い寄せられるままに歩きたい。


どのくらい歩いたか、いま居る場所がどこなのかすら分からないとしても。


夢中に歩いた先に昇った太陽。

照り輝く朝日のなか、わたしは森を抜ける。



「わ、まぶしい…!」



昨日の茜色ではなく、今日は黄金の空。

地面に落ちていた硝子の破片を見つけ、そっと拾った。



「これ、なんだろう…?」



キラッと光った表面に、ひとりの影が見える。

不思議そうに覗きこむ、その存在は。



「ぅわあっ!」



咄嗟に身体を反らせては硝子を放り投げてしまった。

キョロキョロとあたりを見回してから、放られた硝子をもう1度だけ拾った今度は。


落ち着いて、ゆっくり、じっと、見つめ合わせることができた。



「───……、」



顔がある。

目があって、鼻があって、口があって。


ペタペタと触ってみると、まったく同じ動作が硝子に映し出される。



「これが……おれ、なの?」



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