奈落の果てで、笑った君を。




気づけば、俺の手はささやかな柔らかさに触れていた。


─────……なんだ、これは。


朱花が俺の手を掴んだことは分かった。

そしてそのまま、自分の左胸にまで持って行ったことも。



「ここっ、あのときすごく苦しくてムズムズしてねっ、でも嫌じゃなくて、
そうなるとどうしたらいいか分からないから……尚晴に近づかないでおいたの!」


「………」



柔らかい。

こんなにも柔らかいのか、女の身体は。


襦袢の上からでも十分だと感じてしまうが、素肌だとどうなるんだと興味を湧かせてくる。



「尚晴…?わっ!!尚晴っ、鼻から血が出てる……!」


「平気だ。すぐ止まる」


「垂れてる…!垂れてるよ!」


「問題ない」



無意識に、だが意識的に。

俺はほんの少しだけ自分の手に力を加えて、優しく包み込んでみる。



「ひゃぁ…、やっ、」


「……っ」


「わー!尚晴が倒れちゃった!!桂!尚晴が倒れた……!!」



たぶん俺はまだ酔っているんだ。

酒が抜けていない、正常な判断ができないでいる。



「なーに、なにしたんだい今度は」


「わたしのここ揉んだら倒れちゃったの!」


「……なんで俺こいつに負けたんだろ」



俺はもう、いろんな意味で死んでもいい。



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