奈落の果てで、笑った君を。




このあたりはなだらかな山道のため、危険性は低かった。

だとしても夜は人間だけではない野生の動物の怖さがある。


けれど川縁に火を炊けば動物も寄っては来ないということを教えられたのは、実はもっと前のこと。


それは尚晴と出会う前のひと───なんて言った昨夜のこと、彼はつまらなそうに眉間を寄せていた。



「尚晴!これ餡がいっぱいっ」


「逆に中の米が少なすぎるくらいだな。地方によって違うのか」


「これもおいしいね!」


「ああ」



この旅の無事を祈るお守りや、歩きやすい旅装束を揃えてくれた見廻組。


ふり分け荷物に、小銭入れ。
合羽(かっぱ)に手甲、股引(ももひき)。

歩きやすいようにと尚晴とお揃いにしてくれた格好は、わたしに疲れなど感じさせもしなかった。



「尚晴?」


「…ん」



そしてふたりきりになると、今みたいにくっついてくる尚晴。

今も木漏れ日の下で肩を並べていたのだけど、こつんと触れあった。



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