奈落の果てで、笑った君を。




「わっ、んっ、尚晴…猫みたい」



すりすりと頬も寄せてくるし、わたしの髪に鼻を通してすうっと吸っている。

お正月の出来事を思い出して、わたしも嬉しさだけじゃない気持ちがあった。


それに……夜だって。



「この川沿いを下ったあたりで今日は野宿しよう」


「うん」



魚を採るのは尚晴のほうが上手だった。

わたしは川に足をつけて手づかみで挑むのだけど、苦戦しているあいだに尚晴は木の棒で釣竿を作ってしまう。


そんな今日も、尚晴の手柄である鮎(あゆ)という川魚が並んだ。



「朱花、身体洗うか?」


「うーん、朝にする!朝のほうが気持ちいいの」


「なら俺もそうする」



朝方、太陽が昇ってすぐに川浴びをするほうがさっぱりする。

人もいないし、動物もいない。

暗い夜よりは安心して尚晴も見張ることができるとも思うから。



「尚晴はこの体勢で眠れるの?」


「…問題ない」


「ほんと?今日は逆になる?」


「…いや、それはキツいんじゃないか」



< 231 / 420 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop