奈落の果てで、笑った君を。
「わっ、んっ、尚晴…猫みたい」
すりすりと頬も寄せてくるし、わたしの髪に鼻を通してすうっと吸っている。
お正月の出来事を思い出して、わたしも嬉しさだけじゃない気持ちがあった。
それに……夜だって。
「この川沿いを下ったあたりで今日は野宿しよう」
「うん」
魚を採るのは尚晴のほうが上手だった。
わたしは川に足をつけて手づかみで挑むのだけど、苦戦しているあいだに尚晴は木の棒で釣竿を作ってしまう。
そんな今日も、尚晴の手柄である鮎(あゆ)という川魚が並んだ。
「朱花、身体洗うか?」
「うーん、朝にする!朝のほうが気持ちいいの」
「なら俺もそうする」
朝方、太陽が昇ってすぐに川浴びをするほうがさっぱりする。
人もいないし、動物もいない。
暗い夜よりは安心して尚晴も見張ることができるとも思うから。
「尚晴はこの体勢で眠れるの?」
「…問題ない」
「ほんと?今日は逆になる?」
「…いや、それはキツいんじゃないか」