奈落の果てで、笑った君を。




そして寝るとき。

これがわたしを悩ませるひとつだった。


木陰に背中を預けるように座った尚晴のお膝のなか。

すっぽり収まったわたしに羽織をかけて、その上から腕を回してくる。



「胸がドキドキする…」


「…俺もだ」


「じゃあ離れる?」


「…離れたいか」


「…や…、離れたくない…」


「…俺もだ」



一息一息、一言一言、わたしの耳にかすれて届いてくる。

守ってくれるのはありがたいけれど、寝る前にもこんなに近くに大好きな顔があって、起きたときも同じ。


なんていうか、すごく、落ち着かない…。



「びょうぶ、なくていいの…?」


「…もう必要ない」


「そうなの?どうして?」


「…俺が、こうしたいから…だ」



こういうとき、尚晴はまた大人になっちゃったように感じる。

見た目はぜんぜん変わらないわたしと、町を歩くと女の子から見られている尚晴。



< 232 / 420 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop