奈落の果てで、笑った君を。
本人はいつも気づいていないけど、尚晴のことを見ている女の子って結構たくさんいるんだよ…?
「しょうせー……、だい…すき」
「───…かわいすぎる」
うとうとしていた意識のなか、ギリギリで聞こえたつぶやき。
反応する気力は睡魔に倒されてしまった。
ふわっと、またおでこに唇が触れたような気がしたのは気のせいだろうか。
「わあ!道が広いね…!」
「田舎だろう」
「田んぼがいっぱいっ」
「落ちるなよ」
そうして着いた、初めての町。
京と比べると空気が透き通っていて、寺や神社が少なく、家の数も人通りも少ない。
尚晴についていくまま進んでいくと、景色はだんだん立派な家々が建ち並ぶ集落に変わっていた。
「───母さん」
ひとつのお家の前。
大きな平屋は屯所ほどではないが、ここもたくさんの人数が下宿しているのだろうか。
慣れたように門をくぐった尚晴は、ちょうど目当ての人物を見つけたようで声をかけた。