奈落の果てで、笑った君を。
「あっ、そうだ!少ないけど、これあげる」
ずっと懐に入れては持っていた、銭貸。
ぜったい役立つからと、江戸から送ってくれた女に貰ったものだ。
そのとき女は「少ないけど」と言っていて、これはどうも少ないものらしいため、真似てみた。
けれどそんなおれを見つめて、男は困ったように笑う。
「それは大事に持っておけ。俺も楽しかったし、…数年前に死んだ娘を思い出したよ」
「…おじさんのムスメは…死んだの?」
「ああ。ちょうど君と同じくらいの歳だったか。…病でね」
みんな、みんな、死んでいる。
おれが出会う人はみんな、大切な誰かを亡くしていた。
「笑顔を忘れるんじゃないぞ」
「えがお?」
「お前さんの笑顔は俺だけじゃなく、いろんな人間を救う気がするからよ」
そういえばこの人に出会ったときも、「こんにちは!」なんて、とびきりの表情で挨拶をしたのは自分だった。
あれはなに?これはなに?
聞いては不思議がられて、でも嫌な顔ひとつせず教えてくれて。