奈落の果てで、笑った君を。




世の中は、なにが正しいのだろう。

誰かが死ぬことで繋がる平和とは、いったい何なのだろう。


どうして命の代償に、平穏があるのだろう。



『生き抜け、生き抜け。叫んだっていい、泣いたっていい、ただ、走ることだけはやめるな』


『ああ悔しいさ、俺だって。だから懸けさせてくれよ、せめて。俺の流す血が、涙が、いずれの未来を作るって』



敗者がいなければ勝敗は成り立たないと言うのなら。

わたしたちは、敗者なのか。



『友を裏切り、幕府をも敵に回して、お前を道連れにまでした弱い男だ俺は。
なのに───…、まだそんな顔で笑ってくれるのか』



少女は、笑う。

罪深いほど、無邪気に、笑う。


そして言うのだ。



『もういいよ。もう……お家に帰りたい』



あの暗い牢に、空すら拝めない地下牢に。

徳川に、帰りたい───と。



わたしたちは、敗者なのでしょうか。



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