奈落の果てで、笑った君を。
そのぶん忙しくなるのは治安維持として働く見廻組で、みんな質の良い睡眠は取れていない顔で毎日屯所を出ていく。
「朱花、どうかしたか」
「…ううん。わたしもう寝る」
それでも変わらず接してくれるのは尚晴だった。
今まではそんな彼の優しさに甘えていたのだけど、もしかすると尚晴も近いうちに変わってしまうかもしれない。
だったらわたしが先に変わればいいんだと思った。
「…なにをしている」
「わたし、ここで寝る」
布団を持って移動した場所は、尚晴の部屋の前の縁側。
そこに布団を敷いて横になった。
最近は同じ消灯時間ではなく、わたしが布団に入ったとしても机で筆を動かしている尚晴。
邪魔をしたくないし、わたしだって決してひとりで寝ることができないわけじゃない。
「…風邪を引くぞ」
「へいき。だいぶ暖かいから」
「…寝にくいだろう」
「だいじょうぶ。おやすみ!」
くるっと背中を向けて、会話を終わらすように布団にもぐった。