奈落の果てで、笑った君を。
いつもより屯所内もどこか暗い。
雨が降っているわけでもなく、朝はいつもと同じような天気だったはずなのに。
不気味なほど静かで、よく分からない身震いが何度か起きる。
「ねえねえ、桂」
「………」
こういうときは桂 早乃助だ。
この人ならみんなが暗いときでもひとりだけ爆笑しているような、そんなところがあるから。
「尚晴の様子が変だよ…?」
「………」
長い棒から刃を光らせて、姿勢よくぽんぽんと綿を当てている。
わたしが何度声をかけてみても、また返事すら無かった。
「これ、見て桂」
だからわたしは押し入れにしまってある冊子を取り出す。
これはとくにわたしは見てはいけないものらしく、前なんかは汗を垂らすほどに焦っていた桂。
今回もそうだろうと、そんな反応をして欲しいわたしは、あえて目の前で開いて見せた。
「……人の部屋には勝手に入らない。人の私物も漁らない。湯でも浴びといで」
「かつ───」
「浴びてこい」
「っ…」
わたしから冊子を奪うまでもなく、言葉だけでそうさせられてしまった。
ただならぬ何かを感じ取って、これ以上なにも言ってはいけないことだけは悟る。