奈落の果てで、笑った君を。




────カタン。


こそっ、ひそひそ、ぼそぼそ。

井戸場から聞こえた物音に、うつろうつろと行き来していた意識がハッと覚める。


あれからどれくらい経っただろう。


折り紙はうまく作ることができなくて、夕食も初めて味を感じることができなかった。

湯の温度すら、水と何が違うのか区別できないほどの感覚のなかで。



「尚晴!」


「……まだ起きていたのか」


「うん」



やっぱり目を見てはくれない。

ずっと尚晴の部屋にいたわたしを追い出すように通りすぎて、また襖を閉めようとするから。


それ前に身体を挟んで阻止する。



「…疲れてるんだ。今日はひとりで休ませてくれ」


「やだ。わたしもここで寝る」


「…頼む。今日だけは…頼む」


「ううん。もうお布団も敷いちゃったから」



尚晴のぶんと、わたしのぶん。

もちろんあいだを挟むびょうぶは取っ払っている。



「…なら、せめてこれだけは」



と言って、せっかく取れたびょうぶを戻されてしまった。



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