奈落の果てで、笑った君を。
ほわっと昇った湯気。
天かすに大きな揚げが乗った、見るだけでお腹を空かせてくれるうどん。
「熱いさかい気ぃつけてな。ほんでこっちが昆布」
「はい!」
「おい。それは俺のだよクソガキ」
鰹だしもいいけれど、昆布も素材の風味を引き立てた素朴な香りがわたしを誘ってきた。
「ふふ。分け合うて食べたらええやんな~?」
「うんっ」
クスクスと微笑みながら、そこで働く仲居さんはわたしの味方をしてくれる。
京の治安は悪化するばかりで、町人も安心して町を歩けないと噂している一方だけれど、まだここには温かさの残る人情があった。
「…うまい?」
「うまいっ」
ふーっ、ふーっ、はふ、はふ。
ずずずっ、ちゅるちゅる。
のど越しツルッと、汁までぜんぶ飲みきれちゃうんじゃないかと思うほど、舌触りも味も完璧だった。
「どれ、俺もちょっとひとくち」
「人のものは取っちゃダメなんだよ?」
「……よーく教訓にできててお兄さんは嬉しいよ朱花。でも金出してるの俺だから、俺」
わたしが食べているところをじーっと見つめていた桂は、鰹だしのほうも気になるみたいだ。