奈落の果てで、笑った君を。
「お待たせ」
「桂!」
「おー、実は追いかけてくるほうに賭けてたよね俺。えらいえらい」
「いま行こうとしてた!」
「うそ、撤回。ぜんぜんえらくねえーー」
再び隣の椅子に座った桂の手には、入店したときには持っていなかった荷物があった。
なにか買ったのだろうか。
気にはなったけれど、わざわざ聞こうとは思わなかった。
それからうどん屋さんを出ると、商店街ではなく川のほうへ向かった桂に着いていく。
「はいそこ座って」
「なにするの?」
「いーから座ってってば」
今日はいい天気だ。
冬晴れの空の下、川縁にある大きめの石に腰を下ろした。
「───お。よかったピッタシ」
「これなーに?草履?」
「そうなんだけど、ちょっと良い草履ってとこかなー」
石に座ったわたしの前、膝をついてまで履かせてくれた草履は。
わたしがいつも履いていたものとは違って藁(わら)の素材感もしっかりとしており、厚みもあって、なにより形が違った。
くるぶしの少し上まで隠れている形は、足首がきっちりと固定される仕様になっている。