奈落の果てで、笑った君を。
顔は尚晴と違うなあ…ってくらいしか誰に対しても思わないけれど、そうじゃなくて。
今みたいにサッと草履を履かせてくれるところとか、まぶたを伏せるように微笑む仕草がわたしは好きだ。
「…朱花、お前もかわい───、あれだよ、えーっと、」
「うん?」
「前に家茂公に似てるとか言ったの、あれ取り消すからね。朱花は朱花、それでいーんだよ」
「うん!わたし枝豆なの!」
「………それも取り消しまーす」
「ええっ、なんで!」
わたしは枝豆って言われてすごく嬉しいのに…!
「わっ!」
すると両脇に伸びてきた腕によってひょいっと、わたしの身体が浮いた。
こんなものをお散歩途中で見たことがある。
幼い子供が親にこうして「高い高い」ってしてもらっているところ。
「おっっも。…命ってほんと重いよ」
「あははっ!桂っ、もっと高く!」
「それは無理すぎー。……なぁんでこんなことしちゃってんだろ俺」
「たのしいね!」
「………」
わたしのはしゃぎ声に満足したようで、今度はそっと下ろすと。
なぜかぎゅっと、腕に閉じ込めてきた。