奈落の果てで、笑った君を。

与頭の命令





ドォォォォン!!!!


どこからかそんな音が聞こえてくるようになった。

戦がとうとう始まったのだと思わせられるには、十分だ。


薩摩藩と長州藩が手を組んだことで士気が高まり、幕府を終わらそうとする薩長軍。

まだまだ幕府は、徳川は終わっちゃいないと、政権など無くなった将軍をそれでも立てようとする幕府軍。


その戦はだんだんと京の町にも近づいていた。



「加賀(かが)藩と美濃(みの)藩はすでに攻められているようだ」


「だとすれば、ここも時間の問題だな」


「向こうは銃を主に使ってくると噂があるぜ。こっちの幕府軍は数で行っているらしい」



只三郎は屯所を空けることが増え、隊士たちは忙しいなかでも戦が始まる心持ちを備えていた。

わたしはもう安易に散歩に出向くこともできないまま、屯所のなかで過ごす毎日。


窮屈、退屈、そんなふうに言うつもりはないけれど、桂に買ってもらった草履を履いてめいっぱい走りたかった。


誰もが、ただそんな思いを抱いて生きてゆきたいだけなのに、どうして争いは無くならないのだろう。



< 315 / 420 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop