奈落の果てで、笑った君を。
与頭の命令
ドォォォォン!!!!
どこからかそんな音が聞こえてくるようになった。
戦がとうとう始まったのだと思わせられるには、十分だ。
薩摩藩と長州藩が手を組んだことで士気が高まり、幕府を終わらそうとする薩長軍。
まだまだ幕府は、徳川は終わっちゃいないと、政権など無くなった将軍をそれでも立てようとする幕府軍。
その戦はだんだんと京の町にも近づいていた。
「加賀(かが)藩と美濃(みの)藩はすでに攻められているようだ」
「だとすれば、ここも時間の問題だな」
「向こうは銃を主に使ってくると噂があるぜ。こっちの幕府軍は数で行っているらしい」
只三郎は屯所を空けることが増え、隊士たちは忙しいなかでも戦が始まる心持ちを備えていた。
わたしはもう安易に散歩に出向くこともできないまま、屯所のなかで過ごす毎日。
窮屈、退屈、そんなふうに言うつもりはないけれど、桂に買ってもらった草履を履いてめいっぱい走りたかった。
誰もが、ただそんな思いを抱いて生きてゆきたいだけなのに、どうして争いは無くならないのだろう。