奈落の果てで、笑った君を。
ペッと、唾を吐き捨てられる。
ここはさっきの大通りとは正反対の雰囲気を持っていた。
みんな、誰もが型崩れしていない上質な着物を身につけ、女の髪には必ず簪が付けられている。
どうにもこの近辺は、御所や奉行所が集結する、いわゆる官庁街だという。
庶民は歩くことすら許されず、もし歩くとなっても上級国民を優先させなければいけない。
そして湿気だらけの日の当たらない橋の下は、乞食の巣くつ。
ここは無理やりにでも綺麗なもので隠し、見て見ぬふりをしている町だった。
「おじいさん、虫がいっぱいいるよ?」
こんな格好で橋の上を歩いてはいけないらしいので、仕方なく橋の下へ移動した。
そこには座禅を組み、じっとうつむいている老人がひとり。
「おじいさん、ねえおじいさん」
腕も足も、細く冷たい。
髪の毛や髭は伸びきって、身体を覆うためだけに使われたような着物からは、鼻を強く刺激してくるほどの異臭がする。