奈落の果てで、笑った君を。
「幹部になってしまえば名が上がってしまう。そうはならないために、君を平隊士のまにしていました」
おかしいと思っていた。
剣術にも長けて、一人部屋も与えられて。
実力は文句ないほど揃っているというのに、それでも平隊士でいることが。
彼は、見廻組の与頭は、最初からすべて計算済みだったのだ。
わたしは無意識のまま只三郎に近づいて、その袖をくいっと引く。
「これは…お別れじゃないよね…?また、ぜったい、会えるよね……?」
「…必ず会えます。君が望めば、私たちはどこへだって行く」
穏やかに微笑んでくれる大好きな存在。
口うるさくもなくて、静かにいつも見守ってくれていて、けれどたまに素を見せてくれる。
わたしを見つめる眼差しは、いつだって温かかった。
「楽しかったよ朱花。すごくね」
その言葉は、全員からの贈り物。
ここは笑うところなんだ。
お別れじゃない、少しだけ、ほんのちょっとだけ旅をしに行くの。
「…佐々木さん。ひとつだけ、頼まれてくれますか」
すると瞳の色を変えた尚晴は、それまで髪をひとつにまとめていた結紐をほどいた。
そして、その場に姿勢正しく正座する。
「こんなもので覚悟を伝えられるかは分かりませんが…、お願いします」