奈落の果てで、笑った君を。
わたしより長かった尚晴の髪。
パサリ、パサリと、只三郎の手によって短く切り揃えられてゆく。
「お、似合うじゃないか。いつか西洋の服を着るようになっちゃったりしてねー」
桂の言葉はまるで、みんなの夢や期待だった。
ついでにわたしも同じように座ると、きょとんと誰もが見つめてくる。
「わたしも!」
「いや、朱花は女子だ。髪を切る必要など───」
「わかりました。こちらへおいで朱花」
手招きしてくれた只三郎。
撫でるような優しい手つきは、この状況を忘れてしまいそうになる。
「これも、せめてもの変装になるかもしれないからね」
「うんっ」
パサッ、パサッ。
尚晴よりは長さを残してくれたが、女の子だとは到底言えなかった。
「朱花、…風邪はもう、治ったかい?」
「───…治った!!」
もう風邪を引いたふりなんかしない。
もう少し長引けばいい、とも思わない。
わざわざそんなことをしなくたって、わたしの居場所はここだと思えるから。