奈落の果てで、笑った君を。
敗者の道標
「よし、このあたりは静かだ。ふたりともこっち」
大坂城から出て、山道を走る。
先に桂が様子を見に行ってくれて、通れそうなら手招き。
短くなった尚晴の髪とわたしの髪。
走るたびに物足りなさがふわっと揺れた。
「早乃助さん。俺たちはこの先どちら方面を目指せば良いですか」
「越前から飛騨を通って、最終的には信濃へ行くんだ。そこなら大きな山ばかりに囲まれているから、さすがに奴らも追っては来れないだろうし」
「…わかりました」
長旅になる。
地名を言われたところでわたしには想像すらできないけれど、それだけは言葉だけで察することができた。
「桂、桂はこれからどうするの?」
少しだけ速度が落ちた。
大きく走るわけでもなく、小走り程度。
「俺はもちろん君たちを送れそうな場所まで送ったら見廻組に戻るよ」
「…戦に、出るの?」
「…そうなるだろうね」
小走りだった歩幅は、だんだん遅くなっていった。
わたしたちは戦からは離れる。
そのぶん新政府軍からではなく、幕府からの追っ手を撒かなければならない。