奈落の果てで、笑った君を。




ごめん、母さん。

女手ひとつで育ててくれた母さんとの約束、守れそうにないや。


たしかに俺は旗本の生まれだったけど、小さな頃に父さんは流行病に死んじゃって。

それからは“幕臣の子”ってだけでここまで来た。


本当は生活も苦しかったし、周りに馬鹿にもされたし、だからこそ立派な武士になって、父さんが残した道場を継ぐんだって。


そのために利用した組織でしかなかったんだ、俺にとって見廻組というものは最初から。



「黙れ!!なにをごちゃごちゃと言ってお───ぐはァ…っ!」


「なっ!おのれェ…!貴様は旧幕府軍だな…!!構えろーーー!!」



でも、いつからか“居たい”と思った。

母へ宛てた手紙の内容は、気づけば堅苦しさの欠片もなく、楽しくて仕方がない賑やかな日常のことばかり。


実家に帰ることなんか、道場を継ぐことなんか、普通の暮らしをすることなんか、考えもしなくなっていた。



「俺は京都治安維持組織・見廻組、桂 早乃助。あいつらにとって最後まで格好よすぎる───兄貴だよ」



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