奈落の果てで、笑った君を。
偽りの笑顔
気づいたとき、尚晴の背中におぶられていた。
川から流れ着いてからわたしの意識はしばらくのあいだ朦朧としていて、焚き火の炎に起こされたようなものだった。
「…そろそろ乾いてきたか」
「……うん」
山のなか、このあたりは静かだった。
ここはどこだろう。
ここからどう進んでいくんだろう。
追っ手がぜったいに来られないような、安全な場所へ行くだけ。
それでもすごくすごく、妙な静けさがあった。
「さすがに今日は冷え込む。野宿は体力的にも厳しいだろうから、空き家がありそうな場所を探そう」
「…うん」
「朱花、俺の背に乗るか?」
「…へーきだよ」
それから、ただ歩いた。
もう後戻りはできないわたしたちは、ただ前に進むしか無かった。
使われていない神社や、雨や雪を凌げそうな大きな木の下。
行き当たりばったりで身体を休めては、また歩いて。
数日が経った今日は、朝から吹雪いてくる北風が強かった。
「尚晴、……ありがと」
「…どうした?」
「…ううん」