奈落の果てで、笑った君を。
かつらは、桂は、かつらは。
聞きたいけれど聞くことができないのは、答えを知るのが怖いからだ。
尚晴も1度だって名前すら出さない。
『─────……元気でね』
もう会えない、みたいな言葉だった。
そのときの微笑みも、川へ落ちる寸前に聞こえた銃声も、ぜんぶが今生の別れを連想させてくる。
ざくっ、ざくっ。
京よりも大坂よりも雪が多い山道。
前を歩く尚晴に手を引かれながらも、わたしはずっと自分が履いた草履を見つめつづけていた。
『朱花っ、笑えーーーー!!!』
ふと思い出して振り返る。
落ちていた提灯を拾った暗い夜道のなか、「朱花?」と、尚晴は足を止めた。
「…なんでもない!」
ニコッとここにきて笑顔をひとつ見せると、ようやくホッとした顔を浮かべる尚晴。
そうだよね、笑っていなくちゃ。
みんながわたしたちのことを守ってくれたんだから。
わたしたちに懸けてくれたんだから。
「ここは空いてそうだな」