奈落の果てで、笑った君を。
ドンドンドンと、強めに叩いた戸から反応は一切無かった。
山奥にぽつんと佇む、家とまでは呼べない建物は、小屋だ。
「今夜はここを借りよう」
「わ、お布団があるよ?」
「…少し前までは誰かが住んでいたのかもしれないな」
この時間帯で居なければ、もう住んでいないはずだと。
それにここはずいぶんと町から離れている山の奥。
「尚晴…、桂は生きてるよね…?」
暖炉となる囲炉裏すらない小屋内、端に畳まれていた布団1枚のなかにふたりで眠る。
広さは屯所で過ごしたわたしたちの部屋のようで、どこか懐かしい。
そんななか、とうとうわたしは言葉にしてしまった。
「…早乃助さんは強い。俺たちの自慢の兄貴分だ」
「…でも……銃がいっぱい鳴ってたよ…?」
「大丈夫だ」
わたしを抱きしめる腕が震えていた。
その先を想像したくなかったから、ぎゅうっと目をつむる。
桂 早乃助は強い。
桂 早乃助は簡単には死なない。
そんな尚晴の言葉だけだった、わたしが信じられるものは。