奈落の果てで、笑った君を。
「あったかいねえ尚晴」
ふたりだと、あったかい。
ふたりだから、あったかい。
たとえ野宿で乗りきっていたときだって寒くなんか無かった。
「お前の笑顔は…太陽みたいだ」
「ふふっ、尚晴もだよ!」
風車も、折り紙も、今はどこにも無くて。
仲間たちの笑い声もなく、わたしの名前を呼んでくれる存在も近くにはひとりだけ。
それでもわたしには尚晴さえ居れば、いつだってお日さまの下を歩ける。
どんなにどしゃ降りの雨空だって、いつかは尚(なお)晴(は)れるんだ。
────ドンドンドンドンッ!!!
「っ…!!」
そのときだった。
立て付けのあまり良くない戸が、外から激しく叩かれた音。
思わず飛び起きた尚晴は、そばに置いてあった刀を引き寄せながら気配を消して近づく。
わたしもいつでも走ることができるよう草履を履いて着物を羽織り、できるだけ姿を隠す。
「おぉ~い!だれか居ねェかあーーー?」
「居たら返事しろぉーーい!」
酔っぱらいか…?と、尚晴はわたしを見つめた。