奈落の果てで、笑った君を。




そこまでする必要はないんじゃないのか───そんな生ぬるいことなど、もう言ってはいられない。


すぐに尚晴はひとりを斬り、もうひとりは容赦なく蹴った。

ふらつきながらも男は刃を光らせ、尚晴と向き直る。



「さっさとそのガキ渡しやがれェェェ!!」


「尚晴…っ!」



もうどこだとしても油断ならない。

まさか自分が指名手配犯になっているだなんて、思っていなかった。


なにも悪いことをしていないのに、わたしは罪人なのだと。



「ギャア…ッ!!」



ドサリと地面に落ちたのは、男の腕がひとつ。


驚いている暇なんかない。

この小屋は最初から安全でも何でも無かったんだ。

言ってしまえばわたしたちは、まんまと罠に嵌まってしまった兎のようなもの。



「朱花…!!」


「うん…っ」



尚晴に手を取られ、小屋を後にして走った。


生き抜け、生き抜け。
叫んだっていい、泣いたっていい、

ただ、走ることだけはやめるな───。


只三郎の力強い短歌が、わたしと尚晴の背中を押した。



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